1887年、ヴィクトリア女王の即位50周年(ゴールデン・ジュビリー)を記念して Spink & Son が制作したパターン6ペンス。
本シリーズは、英国バーミンガムのディーラー ジョゼフ・ロシェル・トーマス(Joseph Rochelle Thomas, 1865–1938)が Spink & Son と共同で企画し、実際の製作はヨーロッパ屈指のメダル製造所として名高いドイツ・ニュルンベルクのラウアー(L. C. Lauer)工房に委託されました。
英国造幣局の外部で打刻されたこの一連の試作貨は、クラウンから6ペンスに至るまで複数額面が存在し、金・銀・銅・錫・アルミニウムなど多様な金属で製造されています。Spink & Son が国外工房に正式な試験打刻を委託した、極めて特異かつ記録的な事例として知られます。
本コインは、その中でも錫(Tin)で打刻された最上位バリエーションに属し、エッジの一部に「MADE IN BAVARIA」の凹刻をもつ特異仕様です。
Spink パターン6ペンス全体系の中でも最高級の稀少性を有し、文献上は ESC 1782 note 1、Bull 3308 note 8、Bruce X55d のすべてで R5(Extremely Rare)に格付けされています。
現存数自体が極めて限られており、錫製タイプの中でもこの“Bavaria Edge”を備える個体は、現段階で唯一確認例とされています。
さらに鑑定統計の上でも、NGC において PF63 Cameo として唯一登録された個体であり、同型他例は存在しません。
ラベルは “ALUMINUM” 表記ながら、重量2.21g から錫製と確認されており、Sovereign Rarities のロット記録でも同一内容が明記されています。
すなわち本コインは、文献上の R5=極稀少 に加え、鑑定上の Top Pop=世界唯一の登録例という二重の希少性を兼ね備えた、Spink & Son パターン群の中でも孤高の一枚يكون.
アルミニウム版(R4)を上回る階層に位置する錫製タイプで、全素材を通しても総製造数は十数枚前後と推定されます。
その中で本品は唯一の「Bavaria Edge」刻印個体であり、技術史・資料性・美術的完成度のいずれの観点からも、19世紀英国試作貨幣の到達点を示す存在といえます。
本個体は、著名なコレクションとして知られる Thorburn Collection 由来であり、Baldwin Auction 103(2021年10月6日, Lot 162)にて記録された履歴を持ちます。
確かな来歴と世界唯一の登録記録を兼ね備えた、英国パターン貨の中でも極めて象徴的な一枚です。
英国の著名コレクター、ジョン・ソーバーン氏(John Thorburn)が長年にわたり蒐集したヴィクトリア期パターン貨およびプルーフ貨の体系的コレクション。Spink & Son による1887年ジュビリー試作品群を中心に構成され、金・銀・錫・アルミニウムなど多様な素材による試作貨を網羅的に収蔵したことで知られる。その選定眼と保存状態の高さから、後年の研究・鑑定機関においても基準的資料として参照される重要コレクションのひとつ。
السطح (الوجه).
ジョゼフ・エドガー・ベーム(Joseph Edgar Boehm)によるジュビリー・ヘッドの肖像。
左向き三分の四姿で刻まれ、ティアラとヴェールの織り目、胸元のレース装飾まで緻密に彫り上げられています。ティアラは上下二段構成で、宝珠とバンドの陰影が金属光を柔らかく反射。錫素材特有の淡灰色の光沢が、ベーム彫刻の深みを際立たせています。
銘文「VICTORIA. BY. THE. GRACE. OF. GOD. QUEEN. OF. GREAT. BRITAIN. EMP: OF. INDIA」は二重線内に刻まれ、周囲をビーディングが縁取ります。句点間の整列が精緻で、ニュルンベルクの工房技術を感じさせる正確な仕上げ。
胸切り台(トランケーション)はプレーンで、J.E.B.やS&S刻印のない初期タイプ。
PF63 Cameoらしく、肖像のフロストと鏡面フィールドとのコントラストが明瞭で、陰影の立ち上がりが鋭く、女王像の存在感を際立たせています。
ヴィクトリア女王に仕えた宮廷彫刻家として知られ、1887年のジュビリー・ヘッド(Jubilee Head)肖像の作者として英国貨幣史に名を残しました。
彼の作風は写実性と威厳を兼ね備え、ヴィクトリア朝芸術の典型とされています
عكسي (عكسي)
王冠付きの四分割盾を中央に配し、王笏が十字状に交差。
周囲をユニコーンとライオンが支え、英国王室の紋章構成を忠実に再現しています。
盾の下部には薊(スコットランド)、薔薇(イングランド)、シャムロック(三つ葉・アイルランド)があしらわれ、民族的統合を象徴。
外周銘文「SIX PENCE」とローマ数字年号「MDCCCLXXXVII(1887)」を配し、下部に「SPINK」「& SON」の刻印。
構図はクラウンの意匠を縮小したもので、リリーフは驚くほど深く、線の締まりが極めて良好。
錫素材ならではのマット調の輝きが、Cameo仕上げのフロストをより鮮明に浮き立たせています。
エッジの「MADE IN BAVARIA」刻印は打刻角度の正確さを保ちつつ均等な深度で入れられており、ラウアー工房の精密技術を示す決定的特徴です。
歴史的背景
1887年はヴィクトリア女王の即位50周年に当たり、公式のジュビリー・デザイン導入と並行して、民間の名門 Spink & Son も記念的な試作シリーズを企画しました。実務面では当時のディーラー/プロデューサーにあたるジョゼフ・ロシェル・トーマスが関与し、金型・意匠を整えたうえで、製造はドイツ・ニュルンベルクのラウアー工房(L. C. Lauer)に委託されています。ラウアーは欧州屈指のメダル・試作品メーカーで、その外部製作を明示するために一部のコインの縁部(エッジ)へ MADE IN BAVARIA の凹刻が入れられました。今回の6ペンスもその系統に属し、英国貨幣としては極めて珍しい「国外製造を示す刻銘」を備える実例です。
素材面では、アルミニウムや錫といった当時の“新素材”を用いた試作が複数額面(クラウン〜6ペンス)で打たれました。アルミは当時まだ高価な先端金属、錫は柔らかく腐食も受けやすい金属で、いずれも流通より「技術デモ/意匠提示」の性格が強い試験打ちに適した素材と捉えられていました。現物の設計は、表の英語レジェンドとジュビリー・ヘッド、裏の王室紋章と SPINK・& SON の刻銘という“Spinkパターン様式”で統一され、6ペンスの一部ではダイ軸が反転配置(inverted die axis)で作られています。
本件の錫製「Bavariaエッジ」は、とりわけ資料価値が高いタイプです。Sovereign Rarities のロット解説では、錫の総打刻数は(全バリエーション合算で)9枚と伝えられ、そのうちエッジに MADE IN BAVARIA を刻むものは「現在知られる限り本例のみ」と明記。さらに重量2.21gから錫と判別されるにもかかわらず、NGCラベルがアルミと誤記されている点にも触れられています。こうした制作背景と個体情報は、同社のロット・ページ、CoinArchives 経由のアーカイブにも一致して記録されています。
市場評価と希少性
本コインは文献上 ESC 1782 note 1、Bull 3308 note 8、Bruce X55d のすべてで R5(Extremely Rare=現存数3〜5枚級)に格付けされています。
さらに NGC では PF63 Cameo として唯一登録されており、同社の統計上も Top Pop(最高位)かつ世界唯一の鑑定例として確認されています。
この「文献上のR5」と「鑑定統計上の唯一存在」が重なる事例は、Spink パターン全体でもごくわずかしかありません。
錫(Tin)は柔らかく酸化しやすいため、鏡面を維持したプルーフ仕上げ個体の生存率は極めて低く、同素材の完存例は稀中の稀です。
本品はその脆弱な金属特性を克服し、打刻精度・光沢保持・レリーフの立体感いずれも高次元で残存しており、保存状態・打刻精度・希少性の三要素すべてにおいて最高水準を満たす“資料的完成形”と評されます。
来歴は Ex Baldwin Auction 103(2021年10月6日, Lot 162)に遡り、確かなトレーサビリティを伴うことでも信頼性が際立ちます。
錫製 “Bavaria Edge” として確認される唯一の PF63 Cameo 個体であり、ヴィクトリア期の技術史・貨幣史・美術史を横断して語りうる象徴的作品と位置づけられます。
文献上R5(極稀少)に指定されるうえ、NGCではPF63 Cameoとして唯一登録=Top Pop。
アルミ版と並び、ヴィクトリア期の工芸的到達点を示す“世界唯一”の資料的存在です。
錫特有のグレイ・メタリックな光沢と深いレリーフ、そしてエッジに刻まれた「MADE IN BAVARIA」の銘が、19世紀後半の産業美と国際協業の精神を今に伝えます。
時を超えてもなお、当時の技術的探究心と芸術的理想を映し続ける、Spinkパターン・シリーズの象徴的存在といえます。








