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イギリス ダブルフローリン銀貨 1887年 ヴィクトリア女王 Roman I プルーフ NGC PF68 Cameo Top Pop

基本情報

発行地: ロンドン造幣局(Royal Mint, London)
年 号: 1887年
額 面: ダブルフローリン(4シリング)
品 位: 銀(.925 Sterling Silver)
重 量: 約22.6 g
直 径: 約36 mm
鑑 定: NGC PF68 Cameo(Top Pop)
文 献: L&S 97;Bull 2695;Davies 540(dies 1+A);ESC 394;S.3922

1887年、ヴィクトリア女王の在位50周年(ゴールデン・ジュビリー)を記念して発行されたダブルフローリン銀貨。
本コインは、年号の「1」がローマ数字Iで刻まれた特別なプルーフ版であり、同年の一般的なアラビア数字型とはダイ構成や彫刻の細部仕様が異なる極めて洗練されたタイプです。造幣局の意匠試行を象徴するRoman Iタイプは、ジュビリー年の中でも特別な美術的完成度を誇る変種として知られています。

本コインはNGC鑑定でPF68 Cameoという、理論上到達し得る最高水準に位置する評価を受けています。NGC登録個体の中で唯一このグレードに達した存在であり、まさにTop Pop(最高位)として位置づけられる傑出した一枚です。鏡面の透明感、フロストの乗り、トーンの均衡はどれも非の打ちどころがなく、光を受けた際の輝きは他のプルーフ個体を凌駕します。
ジュビリー年の数あるプルーフ銀貨の中でも、このRoman Iダブルフローリンは、美術的完成度・保存状態・希少性の三要素が完璧に揃った頂点的存在であり、英国プルーフ銀貨の到達点を象徴する一枚です。

POINTRoman Iタイプとは
1887年のダブルフローリンに見られる年号の特殊バリエーションで、「1887」の最初の“1”がアラビア数字ではなく、ローマ数字の“I”のように細い縦棒で刻まれたタイプを指します。
通常型(Arabic 1)よりも製造数が少なく、プルーフでは特に稀少
デザイン面でもペレット(点)の位置やレジェンド間隔などに微細な違いがあり、造幣局による試作・意匠調整の過程を示す重要な亜種とされています。

表面(オブバース)

肖像はジョゼフ・エドガー・ベームのジュビリーヘッド。小冠を戴く女王像が左向きに配され、ヴェールの織り目や顎線の面取り、頬のハイライトがプルーフらしい立体感を強調します。王冠は二重の横帯が明確で、入射光によって帯が四条のリニアに見えるほど陰影がくっきり出ます。王冠頂の小十字とその上の微小ペレットは、外周ビーディングに対してわずかに間(スペース)側へ寄る配置が観察でき、既知の1+Aダイ組成の特徴と整合します。
トランケーションには J.E.B. のイニシャル。個体差で J が弱く見える例もありますが、本品では読み取り良好です。銘文 VICTORIA DEI GRATIA は均整の取れた字間・字高で、外周ビーディングとの間隔が一定。PF68らしい深いミラーに、髪筋・宝飾点・耳飾り粒のフロストが強く乗り、カメオコントラストが鮮やかに立ち上がります。拡大下ではフィールドの微細なダイポリッシュが直線的に流れ、打刻圧の均質さと金属面の緊張感を示します。リムは高く、ビーディングの粒立ちが全周で揃っており、エッジは通常のミルド(reeded)仕上げです。

裏面(リバース)

中央は王冠付きの十字状配置の四分割盾。各盾の間には王笏が置かれ、中心にはガーター星章が入ります。星章の十字外縁がわずかに盛り上がり、中心ペレットがごく軽く左寄りに見えるのが、このローマン I タイプに知られるダイの目印です。年号 1887 は上下ではなく上部で左右に分割され、そのうちの 1 が縦棒状(I)で刻まれる点が最大の識別ポイント。
レジェンド BRITT: REG: FID: DEF: は均整よく回り、文字エッジの立ちが鋭いのが特徴です。特に F の右下に小さな三角形セリフが付く書体が確認でき、専門家が指摘するダイの手掛かりと一致します。
イングランド盾のライオンは smooth mane(滑らかな鬣)で、毛房が団子状にもじゃつく shaggy とは異なる表情。スコットランド盾の内枠線は途切れがなく、アイルランドのハープは弦の揃いが良好です。
鏡面フィールドはごく薄い虹彩トーンがリム内にかかり、盾・王冠・星章のフロストが強く浮き立って、背景から意匠全体が前景化して見えます。打刻ズレやリムの荒れは見られず、ビーディングの円周精度も高水準。プルーフとして求められる要素(精密な線、シャープな交点、乱れのない鏡面)がいずれも高いレベルで同居しており、Roman I タイプの教科書的標本と呼べる出来映えです。

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【歴史的背景】

ダブルフローリンは1887〜1890年のわずか4年しか造られなかった短命貨種。クラウンと近似径で、いずれもジュビリー・ヘッドの同肖像を用いたため流通上しばしば取り違えられ、「Barmaid’s Ruin(バーマイドの破滅)」の異名を取ったことが contemporaneous accounts に残ります(クラウンと“同径”ではなく“近いサイズ”である点が正確)。

1887年の導入はゴールデン・ジュビリー記念の全面的な意匠刷新の一環で、表面肖像はジョゼフ・エドガー・ベーム、彫り下ろし・裏面意匠はレナード・C・ワイオン。年号の「1」をローマ数字Iで刻んだ初期仕様(いわゆる Roman I)と、のちに標準化されたアラビア数字1の仕様が並行して存在し、同年のプルーフにも両型が見られます。
Roman I 型リバースは、ダイ組合せ研究で Davies 540(dies 1+A)と整理され、識別点として「年号のI」「十字中心の小ペレットがわずか左寄り」「レジェンド間隔の取り回し」などが挙げられます。さらに専門家の観察では、イングランド盾のライオンは鬣が滑らかな smooth mane とされ、スコットランド盾の内枠線の欠けやレタリングのセリフ形状(Fの足の三角セリフ)など、検証すべき細部が指摘されています。

当年のプルーフ総体は、セット配布の実態もあってアラビア1が主体で、Roman I は相対的に少ない小母集団です。Sovereign Rarities の注記でも、1887年プルーフは主としてアラビア1で、Roman I は少数派である旨が明示されています。したがって Roman I プルーフは、造幣局の意匠検討・移行期を映す「試作的亜種」として、収集・研究の双方で位置づけが明快です。
あわせて、この貨種が短命に終わった背景として、王冠サイズ問題を含むジュビリー貨幣全体への世評や、クラウンと近似径で額面表示がないことによる実用上の混同が批判を招いた点がしばしば挙げられます。こうした文脈は Royal Mint 史・BNJ 論考でも繰り返し触れられており、ダブルフローリンが制度設計・意匠の過渡期に生まれたことを物語ります。

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【市場評価と希少性】

本個体はNGCでPF68 Cameoの評価を得ており、同社の登録では現在も最上位の記録を維持していることが、出品カタログの注記(2025年6月時点)で明言されています。さらに比較検証として、PCGS側に登録されるRoman Iプルーフはいずれも本個体より下位レンジにとどまる旨が示され、主要二社の鑑定統計を通じて「現行最高水準」の位置づけが裏付けられています。

Roman Iタイプ自体は同年のプルーフの中で小母集団で、標準的なアラビア数字型に比べて市場出現頻度が低いことが知られています。造幣局の意匠移行期に生じたダイ特性(年号のI、中心ペレットのわずかなオフセット、レジェンド取り回し、smooth maneのライオンなど)を併せ持つため、類例検証に耐える“基準片”としての資料性も高く、上位グレードの個体はコレクター間で指名性が強いのが特色です。今回のロット解説でも、より一般的なアラビア数字型のプルーフに対しても本個体の優位性が強調されています。
発行面の背景として、プルーフの総ミント数は1,084とされ(この数字にはアラビア数字型が主に含まれる)、Roman Iは相対的に限定的であったと解されます。したがって、トップクラスの保存と鮮鋭な打刻、均整の取れた虹彩トーンまで兼備した個体は、同型中でも特に評価が集中します。

来歴はEx Goldberg Coin Auction 69(2012年5月29日、Lot 4989)に遡り、現在の出品カタログでも明確にトレースされています。鑑定記録に加え、由来が確かであることは国際市場での信頼性を一段と高める要素です。
総じて、Roman Iプルーフという少数派の中で、主要鑑定機関の統計に照らしても現在到達し得る最高評価を保持すること、そして明快な来歴と視覚的完成度が揃うことが、本個体をジュビリー年銀貨の“完成形”として際立たせています。

1887年ダブルフローリン・Roman Iプルーフは、ジュビリー期の意匠・技術・歴史を凝縮した象徴的作品です。
わずか10枚前後の現存しか確認されず、その中で唯一PF68 Cameoとして認定された本コインは、世界最高峰の保存状態と美観を兼ね備えています。
ヴィクトリア肖像の繊細な陰影、打刻精度、虹彩トーン、そしてRoman I特有のダイ特徴が完璧に融合した姿は、単なる貨幣を超えた芸術的完成度を示します。
さらに、光の角度によって表面が黄金から蒼銀へと変化するその色調は、造幣技術と時代美学の融合を象徴しています。
英国造幣史における1887年の到達点を示す究極のプルーフであり、まさにジュビリー・シリーズの頂点を体現する一枚です。

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