Lindy Coins - sólo TOP POP (máxima calificación) para principiantes

1740年 神聖ローマ帝国 プファルツ選帝侯 ターラー銀貨 マンハイム造幣局 共同統治記念 NGC MS65(Top Pop)

基本情報
発行年:1740年
発行地:神聖ローマ帝国 プファルツ選帝侯領(マンハイム造幣局)
肖 像:カール・アルベルトとカール・フィリップの二重肖像
金 属:銀(Silver)
重 量:28.95 g
直 径:約40 mm
鑑定機関:NGC
グレード:MS65(Top Pop)
文献番号:Dav.2530 / Haas 27 / Hahn 272(誤図版)
造幣技師:不詳(マンハイム造幣局)
来歴:
・Heidelberger Münzhandlung Auktion 57(Heidelberg, 2011年11月, Lot 1279)
・Künker Auktion 358(Osnabrück, 2022年1月, Lot 164)
備考:皇帝カール6世崩御後の帝位空位期における帝国代理統治(ヴィカリアート)を記念して鋳造。
NGC登録上、現存最高位(Top Pop)個体。

1740年にドイツ南西部マンハイム造幣局で発行されたターラー銀貨。
当時、神聖ローマ皇帝カール6世が亡くなり、次の皇帝がまだ決まっていなかったため、帝国の政治は一時的に「帝国代理統治者(Reichsvikare)」に委ねられていた。
この時、帝国法に基づき、プファルツ選帝侯カール・フィリップバイエルン選帝侯カール・アルベルト(のちの皇帝カール7世)が共同で統治を行った。
本コインは、その“帝位空位期の共同統治”を公式に示すために発行されたもので、法的にも歴史的にも特別な意義をもつタイプである。
表面は甲冑姿の二重肖像、裏面は双頭の鷲と両家の紋章を配し、法的正統性と継続する帝国秩序を簡潔に可視化した。

本コインはNGCでMS65の評価を受け、現時点のNGC登録における最高位(Top Pop、同点を含む)として位置づけられる。
周縁に淡い金褐色を帯びた自然なトーンと、髪束・甲冑・双頭鷲の羽根に至るまで行き届いた打刻が調和し、ヴィカリアート期ターラーの代表標本としてふさわしい完成度を示す。
さらにKünker(2022)およびHeidelberger Münzhandlung(2011)の記録を備える明確な来歴を伴い、プファルツ選帝侯貨体系の中でも資料的価値と鑑賞性を兼ね備えた上位個体である。

Superficie (anverso).

右向きに並ぶ二人の選帝侯の胸像が、堂々とした均整をもって刻まれている。左にバイエルン選帝侯カール・アルベルト、右にプファルツ選帝侯カール・フィリップ。
両者は帝国代理統治者(Reichsvikare)として1740年の帝位空位期に臨時統治を担った人物であり、この二重肖像はその連携を象徴する政治的構図でもある。

甲冑にマントを掛けた二人の肖像は、儀礼的威厳と人間的温度を併せ持つ。甲冑は武威と責務を、マントは高貴と節度を表す。豊かに波打つ巻き毛は一線一線が精緻に彫り込まれ,,バロック期肖像彫刻に見られる“生命を宿した髪”の表現が、本作にも息づいている。金属面にわずかに残る陰影の柔らかさが、冷厳な金属に血の通った気配を与えている。

銘字「D.G.C.ALB.&C.PHIL.ELECT.PROV.&VICARII」は、「神の恩寵によるカール・アルベルトおよびカール・フィリップ、プファルツ選帝侯、帝国代理統治者」を意味する。宗教的正統性と法的権威を同時に主張するこの語句は、神聖ローマ帝国の統治理念そのものを端的に表すものであった。肖像下の曲線的な胸甲の縁飾りやマントの襞(ひだ)の流れは、当時の宮廷肖像画に見られる照明構成を思わせ、金属上に光と陰の陰影効果を生み出している。

MS65の個体らしく、髪束や甲冑の縁取り、胸飾りの粒文に至るまで打刻が明瞭で、摩耗はほとんど見られない。金褐色から青灰色へと溶け込むグラデーション状のトーンが、立体的な肖像に深みを与え、王侯の静謐な気品を引き立てている。二人の視線はともに右上方へと向けられ、その先にある秩序と協調の理想を見据えている。同じ方向に視線を重ねることで、二人の統治理念がひとつの軸を成していると思われる。
権威と協調が一つの視線に収束するこの構図こそ、ヴィカリアート貨幣に特有の象徴的美学である。

POINTヴィカリアート貨幣は、皇帝崩御後に帝位が一時的に空位となった際、帝国の統治を代行した「帝国代理統治者(Reichsvikare)」の権限下で発行されたヴィカリアート貨幣(Vikariatsmünze)にあたる。
この種の貨幣は、皇帝不在期にも帝国の法秩序と連続性を示すために造られた特別発行であり、政治的・儀礼的意味を併せ持つ。

Reverse (marcha atrás)

中央に刻まれた堂々たる双頭の鷲が翼を大きく広げ、その胸にはプファルツとバイエルン両家の紋章が並置されている。
帝冠を戴く鷲は神聖ローマ帝国の永続的権威を体現し、その両翼に広がる力強い羽ばたきは、混乱期にあっても秩序を保とうとする帝国の姿勢を象徴している。
両家の紋章は、ヴィットルスバッハ家の二系統―プファルツ選帝侯とバイエルン公家―の結束を示し、共同統治(ヴィカリアート)を視覚的に表現している。

上部の銘字「IN.PART.RHENI.SUEV.ET.IUR.FRANCON.1740」は、「ライン・シュヴァーベンおよびフランケン地域における法的代理統治・1740年」を意味する。
これは、カール・アルベルトとカール・フィリップが皇帝代理として統治権を行使した三地域を明示するものであり、帝国の統一を地域単位で支える政治的理念を反映している。

双頭の鷲の構図は、古代ローマの支配理念を継承した「双なる統治」の象徴でもある。右の頭は伝統を、左の頭は新しい秩序を見つめ、両者がひとつの胴体で結ばれることで「帝国の連続性」を示す。胸の楯の中には、バイエルンの青白格子とプファルツの金獅子が鮮やかに対比し、力強くも洗練された装飾的均衡をなしている。

打刻は極めて深く、鷲の羽毛一本一本まで明瞭に彫り上げられ、紋章内の文様や王冠の珠飾にも精密な仕上げが見て取れる。MS65の高鑑定にふさわしい保存状態で、フィールドには細やかな光沢が残り、周縁には金と青が溶け合う自然なパティナが形成されている。

光を受けたとき、鷲の双翼は金属光を帯びてわずかに輝き、紋章部の陰影が立体的に浮かび上がる。その視覚効果は、静的なデザインに呼吸するような生命感を与え、帝国の威信と美術的洗練が同時に宿る瞬間を感じさせる。ヴィカリアート貨幣の中でも、この裏面は政治的象徴と芸術的完成度が最も高次で融合した構図といえる。

歴史的背景

18世紀初頭、神聖ローマ帝国は長期の戦争と王位継承問題に揺れていた。1740年,,皇帝カール6世が崩御すると帝位は一時的に空位となり、帝国の統治は次期皇帝の選出まで帝国代理統治者(Reichsvikare)に委ねられた。この時、帝国法に基づき、バイエルン選帝侯カール・アルベルトとプファルツ選帝侯カール・フィリップが共同でその大任を担った。

両者はいずれもヴィットルスバッハ家の血統に属し宗家関係にあった。このヴィカリアート期は、単なる暫定統治ではなく、帝国の法秩序継続性を可視化する重要な政治儀礼である。カール・アルベルトは1742年神聖ローマ皇帝カール7世として即位し、カール・フィリップはその間、帝国秩序の維持に尽力した。両者の協働は、帝国の統合正統を守る象徴的出来事として記憶される。

この1740年ヴィカリアート・ターラーは、まさにその「空位の帝国」を支えた二人の選帝侯の役割を金属上に記録したものである。表裏に刻まれた二重肖像双頭の鷲は、帝国の政治的正統性法的統治権存続という三理念を象徴する。即位や戦勝の記念ではなく、混乱下で秩序を維持しようとする静かな意志の表現——それが本ターラーの本質的意義である。

ヴィカリアート期の貨幣は、皇帝不在の時間を「空白」とせず、帝国の制度的連続を示す象徴的媒体として鋳造された。その中でも1740年マンハイム造幣ターラーは、制度史的意味造形的完成度が高い水準で結びついた作例であり、バイエルンプファルツという二勢力の協調が刻印された希有の瞬間を伝えている。

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デザインと象徴性

本コインの意匠は、政治と美術の結晶である。
表面に並ぶ二人の選帝侯の肖像は、単なる人物像ではなく、帝国秩序の均衡を体現する構図として設計されている。
両者の視線が同じ方向を向くことで、「対立ではなく協調」「分裂ではなく統合」というメッセージが無言のうちに語られる。
甲冑は守護と責務を、マントは高貴と節度を、流れるような巻き毛は勝利と栄光
の象徴を表し、各要素が帝国理念美術的洗練の双方に奉仕している。

裏面の双頭の鷲は、神聖ローマ帝国の象徴であると同時に、精神と法、信仰と権威という二元の調和を示す。
二つの頭は東西両方を見渡す構図で、帝国の普遍性と持続性を意味する。
胸に抱かれたバイエルンとプファルツの紋章は、ヴィットルスバッハ家の二系統が一体となって帝国を支えたことを表し、その左右対称の配置秩序と均衡の美を強調している。

また、この時代特有のバロック的造形の曲線美,,陰影の強調,,表面の微細なテクスチャーは、単なる装飾ではなく、権威を可視化する手段であった。
王権は彫刻の線と光の中に姿を現し、金属面の反射が信仰や統治の理念を映し出す。

このターラーの美は、力による支配ではなく、秩序と理性による統治を理想とした時代精神の反映である。
バロックからロココへと移行する過渡期においても、ここにはなお「帝国」という普遍的構想が息づいている。
肖像と鷲、銘字とトーンそのすべてが調和し、1740年という年号を超えて、「秩序の芸術」として完結している。

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市場評価

ヴィカリアート期のターラーは、神聖ローマ帝国の貨幣体系の中でも特異な位置を占める。
その発行は皇帝不在の空位期に限られた一時的な制度的発行であり、性格上、記念貨と法定貨の中間的存在といえる。
発行量も極めて少なく、各造幣局が地域ごとに限定的に鋳造したため、現存数は非常に限られる

なかでも1740年マンハイム造幣局によるプファルツ版は、デザインの均衡性、打刻の深さ、金属表面の仕上げにおいて際立っており、同年に発行されたバイエルン側ヴィカリアート貨幣よりも審美的完成度が高いと長く評価されてきた。

今日の市場では、このシリーズは単なる地域貨幣ではなく、帝国権威を象徴する政治貨幣として扱われている。
肖像と双頭の鷲による構図の荘厳さに加え、ヴィットルスバッハ家の二系統(バイエルンとプファルツ)が同一貨面に名を刻む唯一のターラーである点も、学術的・美術的両面から特筆される理由となっている。

保存状態の違いが価値を大きく左右するシリーズであり、打刻の深浅やトーンの質感によって印象が大きく変化する。
本コインはNGCによりMS65の高評価を受け、現存登録個体の中で最高位(Top Pop)に位置づけられる。
髪束・甲冑・鷲の羽根の細部まで打刻が完全に届き、周縁には金褐色から青灰色にかけての自然なトーン
が広がり、その深い打ち込みと金属光沢を際立たせている。
光沢・打刻・保存の三要素が理想的に揃った状態は、まさにヴィカリアート期ターラーの到達点といえる。

さらに、来歴の確かさも本個体の価値を支えている。
2011年Heidelberger Münzhandlungおよび2022年Künkerにおける出品記録が確認されており、長期にわたって保存・評価が継続されたことを示している。
このような記録の一貫性と鑑定の安定性は、学術的にもトレーサブル・オブジェクト(追跡可能な標本)としての信頼を裏づけている。

コレクターの間ではすでに、ヴィカリアート期ターラーの基準個体(Reference Piece)として位置づけられており、今後もその評価が揺らぐことはないと考えられる。

MS65 Top Popという等級は単なる数値的頂点ではなく、1740年マンハイム造幣ターラーにおける芸術的完成度・資料的意義・保存状態の三要素が一致した結果である。
市場ではこのクラスの個体が出現することは稀であり、歴史の重みと美術の均衡が結晶した「ひとつの到達点」として高く評価されている。

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希少性

1740年のマンハイム造幣ターラーは、ヴィカリアート期の貨幣群の中でも最も発行量が限られていたと考えられる。
帝位空位期にのみ短期間鋳造された特殊なシリーズであり、後継皇帝カール7世の即位(1742年)とともにその使命を終えたため、同型の再鋳は確認されていない
ゆえにこの年号の個体は、当時の帝国法制と権力構造を直接伝える一次資料としての意義を持つ。

加えて、マンハイム造幣局の打刻技術は当時のドイツ圏でも屈指の水準にあり、完全打刻個体の現存はごくわずかにとどまる。
特に髪束・羽根・紋章細部まで完全に打ち込まれた例は稀で、資料写真・オークション記録の双方においても数えるほどしか確認されていない
保存上の摩耗や清掃による光沢損失が多い中で、MS65という評価を得た例は極めて希少であり、NGC登録上でも本個体が最高位(Top Pop)として位置づけられている。

この希少性は単なる数量的稀少ではなく、「発行の一回性」「造幣技術の完成度」「保存の完璧さ」「記録の継続性」の四要素が重なり合って生じている。
すなわち、1740年マンハイム造幣ターラーにおけるMS65 Top Pop個体は、技術史的・美術史的・法制史的観点のいずれから見ても均衡の極みに立つ標本である。

さらに本コインは、確かな来歴(Provenance)によって希少価値が補強されている。
2011年Heidelberger Münzhandlungおよび2022年Künker
での出品記録は、長期保存と評価の継続を裏づける証拠であり、
単なる高鑑定品を超えたトレーサブル・オブジェクト(追跡可能な標本)としての価値を形成している。

このように、本個体の希少性は「数」ではなく「質」に宿る
時代・造幣・保存・記録の四拍子が揃うとき、貨幣は単なる取引媒体を超え、文化的遺産へと昇華する。
このターラーはまさにその典型であり、1740年という歴史の瞬間を今に伝える“完全な証言者”として存在している。

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鑑定・保存状態コメント

本コインはNGCによりMS65の評価を受け、現存登録個体の中で最高位(Top Pop)に位置づけられている。金属面は一貫して清澄で、全体に細やかな光沢が広がる。フィールドには柔らかな艶があり、髪束や甲冑縁の細線、胸飾りの粒文まで明瞭に残る。顕著な摩耗やクリーニング痕は認められず、自然な経年変化による表面の密度感が保たれている。

周縁には淡い金褐色から青灰色へのトーンがゆるやかに移り、角度を変えるごとに異なる輝きを見せる。これは長年の安定した環境下で生じた自然なパティナであり、保存の理想形といえる。光が当たると、肖像の曲面とフィールドの反射が呼応し、双頭の鷲の羽根や紋章部がほのかに浮かび上がる。

打刻は非常に深く、甲冑の稜線から紋章の珠飾に至るまで明瞭に刻まれており、マンハイム造幣局の技術的完成度を如実に伝える。特に鷲の翼部の羽毛表現は精密で、わずかな金属の起伏が光を拾い、立体的な陰影をつくり出している。

MS65という評価が示す通り、保存・打刻・トーンの三要素が高次で均衡しており、数値を超えた美的完成度を備えている。照明下での印象は静かでありながら奥行きを持ち、鑑賞するたびに異なる表情を見せる。機械的な精度と自然の経年美が同居する稀有な標本であり、ヴィカリアート期ターラーの理想的保存状態を示す実例といえる。

1740年マンハイム造幣ターラーは、単なる貨幣ではない。
それは、皇帝の座が空白となった帝国を支えた二人の選帝侯の協調と責務を、金属の中に刻み込んだ記録である。
表面の二重肖像は秩序と統合を、裏面の双頭の鷲は帝国の永続を語る。
どちらも声を発しないが、視線と構図が語りかけるものは明確だ「権威とは、調和の上に立つものである」という信念である。

このコインは、ヴィカリアートという過渡の時代における一瞬の均衡を、見事に形にしている。
打刻の深さ、トーンの静謐さ、そして法的象徴性の明晰さがひとつに融け合い、18世紀神聖ローマ帝国の政治思想と芸術的完成が交わる稀有な点に立っている。

MS65という評価は、単なる数値ではなく「時代の証言を最良の姿で伝える」という使命を果たした結果である。
光の角度によって変わるその輝きは、かつて帝国を支えた理性と美の均衡を、今も静かに映し出している。

本コインを手に取ることは、ひとつの歴史を掌に載せる行為である。
そこに刻まれた二人の視線の先には、混迷を超えてなお続く秩序への信仰がある。
ヴィカリアート期の貨幣が持つ静かな威厳は、時を経ても揺らぐことがなく、このターラーはその頂点に立つ象徴的存在といえる。

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