【Top Pop (Only 1):NGC PF64(同ラベル総数4中 “唯一” )】
1841年(C=カルカッタ)1モハール金貨〈Restrike Proof〉。
S&W-3.9 Type A/2(Early Reverse)に加え、胸切り台に“W.W.”(William Wyon)陰刻を備える人気バラエティです。
A/2特有の外周銘文に触れるほど長いヤシ葉と密な植生が、若年女王像 × ライオン&ヤシという象徴的意匠の密度感を一段と引き上げます。
打刻は力強く、髪筋・鬣・ビーディングの立ち上がりは鮮鋭。
鏡面フィールドにはロット解説が指摘する“Proof hairlines”が認められますが、プルーフ特有の性格(製造・仕上げ・取扱いに伴う微細線)に由来しうるもので、総合評価はNGC PF64=Top Popという現行最上位に位置します。さらに、Peh Family Collection Part II由来、Ex Heritage Auctions, 2010 August ANA (Sale #3010), Lot 21298という「語れる来歴」も付随。最上位グレード × 初期裏面(A/2) × “W.W.”陰刻 × 由緒の4要素が揃う本コインは、コレクションの中核にふさわしい一枚です。
(NGCポピュレーション参照日:2025-09-17)
Peh Family Collection Part II(白家珍品集蔵系列)
Peh Family Collection は、主要コレクター Mr. Peh のビジョンと情熱を映す、世界各地の選び抜かれた稀少金銀貨の集大成です。彼は「貨幣学を通じて歴史とつながる」ことを生涯のテーマとし、当初はシンガポール/海峡植民地/マラヤ/北ボルネオのコインに焦点を置きながらも、やがて地理的制約を超えて古代から近代に至る国際的名品へと収集領域を拡張しました。
2004年〜2014年にかけては、カタログや専門誌の読み込みと現場調査を重ね、英国開催のオークションに足繁く通うなど、実地の審美と検証を基盤に収集を推進。目利きとしての一貫した基準は、芸術性(造形・意匠)と歴史的重要性(時代的背景・制度史的意義)の両立にありました。特筆すべきは、生前に一枚も手放さずコレクション全体を家族に託して遺した点で、編成の純度と連続性が保たれていることです。
オークションで見られる “Part II(パート2)” の呼称は、ハウス側がコレクションの分割放出に付すシリーズ名です。
年次や会場に関わらず「第2群(第二弾)」を示す運営上のラベルで、Heritage Auctions でも特集形式で度々紹介されています。
本コインは、その Peh Family Collection Part II 由来であることが明記されており、一貫した選球眼の下で蒐集・保管されてきた来歴が、作品の信頼性と物語性を強く支えています。
歴史的背景
統一貨幣制度の確立(1835年)
東インド会社(EIC)は1835年に統一貨幣制度を打ち出し、金は1モハール=15ルピー、重量180グレイン(約11.66g)・品位11/12(約.9167)を公式規格として制定しました。これにより金銀の規格・呼称が全インドで揃えられ、以後の「モハール」像が確立します。ヴィクトリア期の意匠と「凍結日付(frozen date)」
ヴィクトリア即位後、若年女王像の新意匠が導入され、1841年の年号を冠する金モハールが展開します。なかでもType II(A/2)は1850年に導入されつつ、年号「1841」を据え置く(凍結する)運用がとられ、主にカルカッタ造幣局で1850年代〜1860年代にかけて製造が続けられました。これらは後年の再鋳(Restrike)に該当し、同じ1841表記でも製造期の異なる個体が存在します。
再鋳プルーフの位置づけ
1841年銘の再鋳個体には、鏡面仕上げのプルーフ/プルーフライクが少数作られました。後年生産を示唆するダイ・ラスト(錆)や強いポリッシュ痕が観察される個体があり、当時の原版(あるいは後継ダイ)を用いた少量生産の再鋳プルーフとして、コレクター市場で独自の評価軸を持っています。
Early Reverse(A/2)の意匠的特徴
1841(C)のモハールには、裏面の植生表現に差のある複数リバースが知られます。Early Reverse(A/2)は、ヤシの葉が外周銘文に触れるほど長く、全体に植生が“濃い”のが最大の識別点。若年女王像×ライオンとヤシという象徴的モチーフの“密度感”を高める要素として人気が高いバラエティです。
“W.W.”陰刻とカルカッタ造幣局
表面胸切り台に見られる“W.W.”陰刻(Incuse)は、造幣局主任彫刻家ウィリアム・ワイオン(William Wyon)の頭文字で、1841年モハールの重要な識別・人気要素です。対象の再鋳プルーフ群はカルカッタ造幣局(C)で作られたことが明記されるのが通例で、同局がヴィクトリア期インド金貨の中核を担っていた事実とも整合します。
法的地位と受入れ
当時の実勢通貨は銀のルピーでしたが、金モハールは価値基準として15ルピーが想定されていました。1841年1月13日付で官庁(Treasuries)にモハールを「15ルピー」で受け入れる命令が出されるなど、金貨の取り扱いは銀本位運用と併走する形で調整されています。
ด้านหน้า
若年期ヴィクトリア女王左向き胸像(William Wyon 作)。外周銘は VICTORIA QUEEN、年号 1841 が続き、胸切り台にはデザイナーの頭文字 “W.W.” が陰刻(incuse)で入ります。胸像の髪帯や細い髪筋は鋭く、プルーフ由来のポリッシュ痕(ヘアライン)はフィールドに見られるものの、鏡面の反射がモチーフの立体感を強調します。
書体と配置:外周の VICTORIA QUEEN は均整のとれたローマン体で、肩口下の切り口(truncation)に W.W. incuse。これは本型(再鋳プルーフ群)で重視される識別点の一つです。
作風の要点:若年像の髪束の起伏や耳・髪帯のエッジは強い打刻が入った個体で顕著に出る傾向。再鋳プルーフではダイ(版)の磨きが強く、照り返しが“はっきり”出る反面、細いヘアラインが視認できます。
ย้อนกลับ (ย้อนกลับ)
地平線上を左へ進むライオンと背後の大きなヤシ。
外周は EAST INDIA COMPANY、地の部分(エクサーグ)に ONE MOHUR とペルシア語(「yek ashrafi/一モハール」)銘が並びます。
縁取りはビーズ状(beaded border)。
バラエティ(A/2=Early Reverse)の決め手:本コインは S&W-3.9 Type A/2(Early Reverse)。ヤシの葉先が外周銘文/ビーズ縁に触れる(あるいは極端に近接する)ほど“長く”伸び、全体の植生が“濃い”のが最大の識別点です。通常説明でも “earlier reverse with fuller vegetation … fronds which touch the outer legends” と明記されます。
図像の見どころ:ライオンの鬣(たてがみ)や脚部の毛並みは強打刻の個体ほど立体的。プルーフでは鏡面フィールドとフロスト調意匠のコントラストが効き、ライオンとヤシのシルエットが際立ちます。
銘文と書記:上部弧状に EAST INDIA COMPANY、下部に ONE MOHUR とペルシア語表記(yek ashrafi)。
公的ミュージアムの解説でも「yek ashrafi(=一モハール)」と説明されています。
市場評価と希少性
本コインは NGC 同ラベル総数4中“唯一”のPF64=Top Pop。供給が著しく薄いうえ、Early Reverse(S&W-3.9 Type A/2)という意匠的優位(外周銘文に触れる長いヤシ葉と密な植生)、胸切り台の “W.W.” 陰刻、そして Restrike Proof ならではの強い打刻と鏡面が評価の核になっています。市場では“最上位一点”への選好が明確で、同型の下位グレードや流通貨と比べてTop Pop特有のプレミアム構造が安定的に認められます。さらに Peh Family Collection Part II 旧蔵、2010年 Heritage Auction(Lot 21298) 出品歴という「語れる来歴」が信頼性と訴求力を補強。ポピュレーションは随時更新ながら、現時点での「4枚中ただ一枚のPF64」という事実が本コインの市場ポジションを決定づけており、長期保有の観点でもコレクションの中核に据えやすい逸品です。
総評
本コインは、Early Reverse(S&W-3.9 Type A/2)の意匠的魅力、胸切り台の“W.W.”陰刻という識別価値、Restrike Proofならではの強い打刻と鏡面、そしてPeh Family Collection Part II由来の確かな来歴を一体で備えています。
鑑定面でも、同ラベル総数4中“唯一”のNGC PF64=Top Popという稀少なポジションが際立ちます。
鏡面フィールドに認められる“Proof hairlines”はプルーフ特有の性格に沿う範囲で、総合評価を損なうものではありません。
英領インド金貨、あるいは東インド会社期の金貨コレクションにおいて、中核を成し得る完成度と物語性を備えた一枚です。
長期保有の観点でも、グレード・バラエティ・由緒の三条件が揃う点で、十分に推奨できるコインと言えます。