本コインは 1847年 ヴィクトリア女王「ゴシック・クラウン」銀貨の特別バラエティ、
ESC-2578a(R2=Very Rare)|N over inverted N in UNITA|Plain Edge|.999 Fine Silver です。
通常のゴシック・クラウンがレタードエッジで.925銀の標準型であるのに対し、平縁かつ純銀製のこのタイプは、当初から実験的な性格を持ち、極めて限られた枚数しか存在しません。文献上も R2=Very Rare(稀少) に分類され、収集家の間で特別な地位を占めています。
さらに本コインは PCGS鑑定 PR63 Cameo を取得。登録枚数わずか4枚という極小母集団の中で、Top Pop(最高位) に位置する1枚です。
文献的な稀少性と、鑑定上の希少性が同時に備わるこの一枚は、まさに「ゴシック・クラウン収集の究極」と呼ぶにふさわしい存在といえるでしょう。
歴史的背景
1847年は、イギリスが「ヴィクトリア時代」の繁栄へと本格的に歩み始める重要な時期でした。産業革命の進展により、イギリスは世界最大の経済・海軍大国となり、「パックス・ブリタニカ」と呼ばれる覇権体制を築きつつありました。即位から10年余りを経たヴィクトリア女王は国民の支持を確立し、その統治は道徳・秩序・繁栄を象徴する存在としてヨーロッパ各国からも注目を集めました。
ゴシック・クラウン誕生の背景
このクラウン銀貨が発行された1847年は、貨幣デザイン改革の一環として、より芸術的で格式高い意匠が模索された時期でした。従来の実務的なデザインに代わり、中世ゴシック様式の書体と紋章美術を融合させた「ゴシック・クラウン」は、イギリスの威信を示す特別鋳造として登場しました。
デザインを担当したのは、イギリス造幣局の名彫刻家 ウィリアム・ワイオン(William Wyon, R.A.)。既に「ヤング・ヘッド肖像」で女王コインのイメージを確立していた彼が、晩年に手掛けた集大成ともいうべき作品がこのゴシック・クラウンです。王冠を戴くヴィクトリアの肖像は「女帝」としての統治権を示し、裏面の複雑な紋章意匠は「大英帝国の多民族統合」を象徴しています。
特殊性と特別鋳造の性格
通常のクラウンは流通を意識して発行されましたが、この1847年プルーフ・ゴシック・クラウンは、王室・要人への献上やコレクションを前提とした 特別鋳造(Proof issue) とされます。本個体はさらに、純銀製(.999)・Plain Edge・版刻エラー(N over inverted N in UNITA) という稀少なバラエティであり、造幣局による試験的・展示的性格をも併せ持つと考えられます。
文化的意義
19世紀半ばのイギリスは、産業と植民地拡大により「世界の工場」と呼ばれる存在でしたが、同時に文化と芸術の守護者としての側面を強調する必要がありました。ゴシック・クラウンはその文脈で「国威を美術に託す試み」として位置付けられ、荘厳なゴシック文字と意匠は、英国の歴史的伝統と王政の正統性を国民に印象づける役割を担いました。
歴史的意義
ゴシック・クラウンは、単なる通貨を超えて、ヴィクトリア朝イギリスの国威・芸術・政治的象徴性を凝縮した名品です。
特に今回の個体は、
◎1847年という帝国拡大期に鋳造された特別打ち
◎ワイオン晩年の最高傑作のひとつ
◎純銀製・Plain Edge・版刻エラーという稀少性
これらの要素が重なり合い、「歴史的背景」「芸術性」「希少性」の三位一体で輝きを放っています。
表面(オブバース)
このコインの表面には、王冠を戴いたヴィクトリア女王の左向き胸像が刻まれています。デザインは、イギリス造幣局の主席彫刻師であった ウィリアム・ワイオン(William Wyon, R.A.) によるもので、彼が晩年に到達した芸術的完成の極致ともいえる作品です。ワイオンは「ヤング・ヘッド肖像」で女王の若々しいイメージを確立しましたが、このゴシック・クラウンにおいては、より荘厳で象徴性に富んだ表現を追求しています。
銘文と意味
胸像を囲む銘文はラテン語で 「Victoria dei gratia britanniar: reg: f: d:」 と刻まれています。これは「神の恩寵による、イギリスの女王、信仰の擁護者ヴィクトリア」を意味し、女王の統治権が神の意志に基づくものであることを強調しています。この宗教的・王権的なレトリックは、当時の国民にとって非常に重要な正統性の表現でした。
デザインの特徴と芸術性
◎王冠の荘厳さ:ゴシック様式の宝飾が細密に表現され、粒状の宝石、クロスパティの装飾、アーチに至るまで精緻に刻まれています。光の角度によって鏡面仕上げのフィールドに映えるため、実物は立体的な威厳を感じさせます。
◎衣装の文様:ローブには繊細な刺繍模様が施され、フロスト加工の浮彫部分と鏡面フィールドとのコントラストにより、質感の違いまでもが際立ちます。特に肩から胸元にかけての繊細なカットは、プルーフ打ちならではの美を引き立てています。
◎ワイオンの技巧:胸像の輪郭線や髪の流れは柔らかく、それでいて明瞭に彫り分けられています。髪の房ごとの立体感や流れるような線は、ゴシック的な荘厳さと女性的な優雅さを兼ね備えた独自の様式美を示しています。
技術的特徴
本コインはプルーフ鋳造であるため、ミラーフィールド(鏡面)とフロスト加工のデバイスが強いコントラストを生み、顕著なカメオ効果を呈しています。女王の肖像部分は霜降りのように白く浮かび上がり、その周囲の光沢あるフィールドが肖像を際立たせ、荘厳さと神聖さを一層強調しています。
裏面(リバース)
裏面は、四つの盾を十字形に組んだ紋章構成を中心に据え、イングランド(三頭獅子)、スコットランド(獅子のランパント)、アイルランド(ハープ)の国章がそれぞれ配置されています。盾と盾の十字の四隅(アングル)には、イングランドのバラ(Tudor Rose)、スコットランドのアザミ(Thistle)、アイルランドのシャムロック(Shamrock)といった三国の国花があしらわれ、英国連合王国の統合を視覚化しています。中央にはガーター騎士団の星章(Garter Star)が据えられ、王国の栄誉と結束を象徴的に締めくくります。
外周銘文はゴシック体(ブラックレター)で刻まれた
“TUEATUR UNITA DEUS · ANNO DOM · MDCCCXLVII”。
意味は概ね「神よ、結束せる我らを守り給え/主暦1847年」。荘厳な書体とロゼット状の区切り記号がリズムを生み、紋章美術と文字美の融合という本作の主題を強く印象づけます。
本個体はさらに、外周銘文の UNITA における「N over inverted N(反転Nの上に正Nを再刻)」という版刻ミス(再彫り)をともなう希少バラエティです。
拡大観察では、反転したNの痕跡の上から正しいNが重ねられているのが読み取れ、製版工程における訂正の痕跡として研究価値も高いポイントとなっています。
デザインと仕上げの見どころ
◎幾何学的均整:十字配列の大枠と、盾形の曲線・直線が緻密に噛み合い、中央星章へ視線を導く強いシンメトリーを形成。
◎国花の象徴性:バラ/アザミ/シャムロックが国民的アイデンティティを補強。政治的統合=審美的統合というメッセージが一枚に溶け込みます。
◎プルーフ打ちの効果:鏡面フィールドとフロスト化した紋章のコントラストにより、レリーフの起伏と陰影が際立ち、ゴシック装飾の細部(葉脈・宝飾・曲線)の“抜けの良さ”が一段と映えます。
◎細部の端正さ:ビーデッド状の外周と均整のとれた余白設計(フィールド)が、王権の格式を静かに支えています。
希少性と市場評価
◎R2 (Very Rare):ESCカタログにおいて「非常に稀少」と位置付けられるバラエティで、現存数はごく限られます。市場に登場するのは数年から十数年に一度という水準です。
◎バラエティの特異性:「N over inverted N in UNITA」という版刻エラーを伴い、標準型よりさらに研究的・収集的価値を高めています。
◎材質の特異性:通常はスターリングシルバー(.925)ですが、本品は純銀製(.999 Fine Silver)の特別鋳造品であり、コレクターの間で格別に評価されています。
◎市場動向:近年「ゴシック・クラウン」はヴィクトリア期を象徴する名品として国際的に高い人気を誇り、特に高鑑定かつ珍しいバラエティは入手機会が極めて限られています。
総評
本コインは、1847年に鋳造された「ゴシック・クラウン」の中でも特別な存在であり、歴史的意義・芸術性・市場価値のすべてを兼ね備えた究極の一枚です。
まず、歴史的背景においては、ヴィクトリア時代の絶頂を迎えつつあったイギリスの国威を象徴し、ワイオンが手掛けた荘厳な意匠は単なる通貨を超えて「国家の美術作品」として位置づけられます。中世ゴシック様式の書体と緻密な紋章美術が融合し、貨幣芸術の頂点を体現しています。
次に、希少性では、本コインは文献上 R2(Very Rare)に分類される純銀製・Plain Edgeの特殊バラエティで、通常のゴシック・クラウンとは一線を画す存在です。加えて「N over inverted N in UNITA」という版刻エラーが伴い、研究対象としても収集家垂涎の一枚となっています。
さらに、鑑定的優位性においても際立っており、PCGSで PR63 Cameo を獲得、現存わずか4枚の登録の中で Top Pop(最高位)に位置づけられています。これは「文献的希少性」と「鑑定的希少性」が二重に証明された個体であることを意味し、同分野における究極の収集対象と言えます。
総じて本コインは、芸術・歴史・稀少性・鑑定価値という4つの軸がすべて最高水準で重なった稀有な存在です。ゴシック・クラウンの中でも「特別な頂点」として、あらゆるコレクションの中心を担いうる一枚です。